お尻の代表的なエクササイズ「ヒップスラスト」はデメリットばかり
話題の「ヒップスラスト」はどんなエクササイズ?
最近、テレビをつけてもYouTubeを見ても、女性のボディメイク特集が多く、ことさらヒップアップや美尻づくりのトレーニング風景がクローズアップされています。
特にInstagramでは女性達がこぞってエクササイズ動画や「映える」写真をアップしています。
中でもタイトルにつけたように「ヒップスラスト」というエクササイズ種目を行っている光景を非常によく見掛けます。
■ヒップスラストとはこちら
いかがでしょうか?
このエクササイズを、Instagramなどで見掛けたことがありませんか?
ヒップアップや美尻づくりのトレーニングとして紹介されている「ヒップスラスト」ですが、残念ながらヒップアップや美尻づくり効果は少ない種目なのです。
身体構造学や運動整理学の観点から見ると「ヒップスラスト」は、正確で、機能的にトレーニングを行うことが非常に難しい種目です。
そのため、ほとんどの人は正しいトレーニングを行なえておらず、おのずと結果もついてこないというわけなのです。
SNSなどに投稿されている「ヒップスラスト」を行っている動画を見ると、
お尻のトレーニングをしてる「っぽい」からやっているだけなのでは?と思ってしまいます。
お尻のボディメイクに「ヒップスラスト」は、メリットありません。その訳とは…
この種目そのものは、正しく行なえていれば、効果も出ますが、正確に行なうことが大変難しい種目です。種目自体には罪はないので、言い切ることはしたくありませんが…
ハッキリ言って「ヒップスラスト」を行うメリットはありません。(お尻のボディメイクを行いたい場合に)
私自身、約10年間程、パーソナルトレーナーを続けていますが、今まで一度も提供したことがありません。
私が提供していないからといって「それが?」と言われてしまいますが^^;
非常に高い身体の機能性がないとヒップスラストをしても全然お尻を使えずに、かえって腰を痛めてしてしまうし、仮にうまく出来たとしてもお尻の筋肉をつけることは出来ないのです。
ヒップスラストを行うメリットがないとまで言い切れる理由を、身体構造学と運動生理学を根拠にいくつか挙げたいと思います。
①股関節の伸展の分離動作が必要とされるから。
②骨盤の後傾の分離動作が必要とされるから。
③非常に高いレベルでの体幹の安定性が必要とされるから。
④お尻の筋肉の本来の使い方である伸張性収縮が起こりにくいから。
上記の4点が主な理由です。
①「股関節の伸展の分離動作が必要とされるから」
ヒップスラストとは重りがついたバーベルを脚とお腹の境目に置いて、背中をベンチ台にもたれ掛け、足で床を押してお尻を持ち上げる種目です。
この、足で床を押してお尻を持ち上げるという動き=股関節の伸展という動きになります。
ざっくり言うと股関節の伸展とは、脚全体を身体の後ろに蹴る動きのことです。
■股関節の伸展
※シャツINは気にしないでください笑
ヒップスラストは、まずこの脚を後ろに蹴る動作が正しく出来ないことには始まりません。
「え?これなら簡単でしょ」
「誰でも出来るよ」
と思われた方…
残念ながら、実はほとんど(経験則的には80〜90%以上)の方が正しく行えていません。
この正しく行うというのが、身体構造学的には分離と言い、股関節の伸展「のみ」を行う動きのことを指します。
つまり大まかに書くと、
股関節伸展の分離とは、他のどこも一切動かさず、脚だけを後ろに蹴る。ということになります。
実際これはめちゃくちゃ難しいワケでして、ブログをご覧の皆さんも是非行ってみてください。
※スマホで動画を撮ってみるか、写真を撮ると客観的に確認出来ます。ご家族や友人が近くにいる場合は見ていて貰っても良いと思います。
正しく行えると、
骨盤の前側にあって触ることの出来る骨と膝のお皿が同直線上のまま、身体から後方に約20度、脚を蹴ることが出来ます。
ちなみにこの脚を後方に蹴る動きを生み出す力を担っているのは、大臀筋というお尻の筋肉です。なので正しく出来ればお尻に刺激が入ります。
(ただ、刺激が入ったとしても運動生理学の観点からは大きな効果は…これは改めて記事に起こします。)
■お手本はコチラ
しかし、恐らくほとんどの方が…
■股関節の伸展「のみ」が出来ない為、腰を反らせてしまう
上記の様な誤った動きになってしまうかと思います。
いかがでしたでしょうか?
股関節の伸展分離動作(脚のみを後ろに蹴る動き)が出来ずに腰を反らせてしまう人の場合、ジムで頑張ってヒップスラストをしてもお尻(大臀筋)には全く刺激が入らず、代わりに腰の筋肉を酷使することで腰痛になってしまいます。
残念ながら、Instagramで見掛ける多くの方が腰を反らしまくってヒップスラストを行っているので、
慢性的な腰痛を抱えているのではないでしょうか?
②骨盤の後傾の分離動作が必要とされるから
この②もInstagramで投稿されている動画を拝見すると、
正しく出来ている方が凄く少ない動作のひとつです。
むしろ後傾ではなく全く逆の前傾方向に動かしている方が多いくらいです。
そもそも骨盤の後傾の分離動作とはコチラ
◆後傾
◆通常(通常はやや前傾)
一見、簡単そうに見えますよね?
実際にやってみてください。
恐らく骨盤の後傾だけではなく、
下記の様な余計な動きも一緒について来てしまうと思います。
◆膝も曲がってしまう
◆背中も丸くなってしまう
これらは代償運動といって骨盤の後傾が正しく出来ていない為に、ごまかそうとしている動作になります。
※骨盤の後傾の分離動作=骨盤の後傾「だけ」を行う動きのこと
つまり、骨盤の後傾が正しく出来ておらず、
お尻の最も大きな筋肉である大臀筋を使えない状態であるということでもあります。
(立っている状態で骨盤を正しく後傾出来るとお尻の筋肉がギュッと収縮して使われるのが分かるはずです)
やってみると結構、難しい動作じゃないですか?
客観的に、骨盤の後傾が正しく出来ていないのに、
バーベルに重りをつけて負荷を高めた状態でヒップスラストが出来ると思いますか?
ですので、②の理由から、
ヒップスラストを気軽にやってもお尻に効かないということが分かるはずです。
むしろ、腰を反りながら行ってしまうので、容易に腰を痛めてしまう訳です…
(正しく出来てもボディメイクとしての効果は少ないですが、その話は追々…)
③非常に高いレベルでの体幹の安定性が必要とされるから。
表題の内容について突っ込んで解説してゆきます。
この③もInstagramで投稿動画を見ても、
正しく出来ている方が凄く少ないです。
まず、高いレベルでの体幹の安定性と言っても、全くイメージが湧かないと思います。
出来るだけざっくりと説明すると…
ヒップスラストは名前の通り、お尻の筋肉を刺激する(したい)種目なので、お尻の筋肉を効果的に使いたい訳です。
お尻の主な筋肉である大臀筋は、股関節の伸展(足を後ろに蹴る動き)と骨盤の後傾(腰を丸める方向に骨盤を導く動き)をした時に最もギュッと縮まります。
◆大臀筋の写真(左側)
つまりヒップスラストのミソは、
「いかに股関節を伸展し骨盤を後傾できるか」と「それ以外の余計な動き=代償動作を抑えられるか」の2点になります。
※余計な動き=代償動作とはヒップスラストで例えると、動作中に腰が反る動きです。
Instagramの投稿動画を観てみてください。バーベルに重りを沢山つけて行っている方ほど、正直めちゃくちゃ腰が反っています。
先程お話しした股関節の伸展と骨盤の後傾、代償動作を抑える主な働きを担ってくれているのが体幹、具体的には腹斜筋、腹直筋、腹横筋と呼ばれる腹筋たちなのです。
※腹斜筋と腹直筋の大きな機能のひとつは骨盤の後傾、
腹横筋の大きな機能のひとつは腰椎・骨盤を安定化させる(骨盤を後傾させる働きもあります)働きがあります。
◆腹斜筋(左側)
◆腹直筋(左側)
◆腹横筋(左側)
分かりづらいので、一旦整理しましょう!
■腹斜筋、腹直筋、腹横筋の腹筋たちが正しく働いてくれないと骨盤を後傾出来ないし、身体を動かしている最中に体幹を安定させることが出来ません。
↓
■骨盤を後傾出来ず、体幹も安定させる事が出来なければ、ヒップスラストをしても股関節が正しく動かずに、お尻を使うことが出来ません。
↓
■お尻を使うことが出来ない場合、腰や背中を反らして「一見、出来ているようにみせる」しかないので、腰を痛めます。
※バーベルの重さが腰に掛かります。
上記の理由から、バーベルに重りをつけて行うヒップスラストの場合、高いレベルの体幹の安定性が必要であることが分かります。
少なくともバーベルに重りをつけてヒップスラストを行うには、
下記のシングルレッグ・ヒップリフトというエクササイズが写真と全く同じように出来なければ、ヒップスラストは到底正しく出来ません。
■シングルレッグ・ヒップリフト
見た目では、
・腰が反っている
・脚を持ち上げている側の骨盤が下に傾いている
感覚的には、
・腹筋を使う感覚がない
・お尻を使う感覚がらない
・もも裏ばかり使っている
・腰が張る
上記に一つでもあてはまる方はヒップスラストを行っても腰を痛めるだけです。
④お尻の筋肉の本来の使い方である伸張性収縮が起こりにくい。
4つめの理由について解説してゆきたいと思います。
ヒップスラストは…
①深くしゃがんだとしても背中をベンチ台の方向に強く押し当てる=寄り掛かる(背中の白矢印)為、
バーベルの重量を増やしても、ベンチ台への圧力ばかりが高まり、筋肉をほとんど使わずとも行うことが出来ます。
②深くしゃがんだ時に意図せず、
もも裏とふくらはぎを圧迫固定する構造上の作用(黄色の丸で囲っています)が働く為、
筋肉にほとんど力を入れなくても、かなりの重さを支えることが出来ます。
③足裏に床方面に垂直方向への力と、つま先方面への2つの力が働くので、
足裏と床で強い摩擦が生じて、摩擦力(足裏の赤の波線)でバーベルの重さを分散されることが出来ます。
つまり構造学上、
【どれだけヒップスラストのバーベルを重たくしても大して筋肉の力を使わない】
エクササイズなのです。
まとめ
それでは、効果的なエクササイズはどのようなものなのか、解説して行きましょう。
そもそもお尻を形づくる筋肉は以前にも紹介した大臀筋と、初登場の中臀筋が主です。
大臀筋
中臀筋
筋肉自体はなんとなくイメージをして頂く程度で構いませんが、大切なのは「ヒト本来の生活で普段、どのように使われるか」であり、
本来の使い方に則したエクササイズが最も効くエクササイズであるということです。
さて、それでは実際にどのように使われるかというと…
大臀筋はしゃがんだ所から起き上がる動き。
(深くしゃがんだ時にゴムのように伸ばされながら身体の重さを支え、しゃがみきった所から踏ん張って立ち上がろうとする時に働きます)
中臀筋は片脚で支える時に身体が左右に傾かないようにバランスを取る動き。
(歩いたり走ったり、階段を登ったり降りたりする時は一瞬ですが、片脚で身体を支えなくてはいけない場面があり、そういった時に身体が左右にブレないようにする為に働きます)
つまり両筋肉とも、
しゃがんだり、片脚で身体(骨盤)がブレない為に、筋肉がゴムバンドのように引き伸ばながらも耐える時に非常によく働きます。
お尻のボディメイクに最も効果的な種目とは?
つまり具体的な種目としては、
片脚立ちでバランスを取りながら、深くしゃがむ、ブルガリアンスクワットやシングルレッグスクワットが最も効果的な種目です。
ブルガリアンスクワット
シングルレッグスクワット
いかがでしたでしょうか?
トレーニングは「やった感がする」または「インスタ映えする」エクササイズ種目を行うのではなく、
本来のヒトの筋肉の使い方に沿って、行う方の機能性に則したエクササイズ種目を、正確に行う必要があるのです。
万が一、ただやみくもにヒップスラストを行えば、
前述のように腰が反ることで慢性的な腰痛になりますし、
看過して行い続ければ腰椎分離症や分離すべり症となり、整形外科や接骨院に長期間通うはめになるでしょう。
皆様の今後に少しでもお役に立ちましたら幸いです。